
大切な着物にカビが発生してしまうと非常に悲しいですね。
ここでは、着物の天敵「カビ」が発生する原因や、予防策について解説します。
また、すでにカビが発生してしまった着物については、ご自宅でできるカビの取り方・落とし方を紹介したいと思います。
目次
着物にカビが発生する原因は「高温多湿」と酸素・タンパク質

カビが発生するには、「60%以上の湿度」「酸素」「5~35℃の温度」「タンパク質」という4種類の条件が必須です。
そのため、着物にカビが発生し繁殖することを防ぐには、これらの条件を可能な限り忌避して管理しなければなりません。
ところが日本は、「60%以上の湿度」と「5~35℃の温度」という、カビにとっては快適な気候や環境がそろいやすい土地です。
着物の地糊はカビを助長する
また、着物の染色工程で使用される「地糊(じのり)」は高い吸湿性を持ちますので、カビの発生を助長します。
さらに、着物は絹を資材として織られているものが多いのですが、蚕によって生み出される絹糸は、その70%がタンパク質から成っています。
カビはタンパク質を好物とするので、絹にはカビが生えやすいのです。
つまり、カビにとって快適な条件がすべてそろっているのが、日本の着物保管の環境です。
日本で着物を所有し大切に長く維持することが、「カビとの戦い」でもあるということがお分かり頂けると思います。
「色合い」によるカビの進行度の見分け方

着物に発生したカビの繁殖がどの程度まで進行しているかを見分けるためには、カビの「色」を観察して判断するのが確実です。
着物に繁殖するカビは時間経過によって「白」→「黄」→「黒(こげ茶)」と色が変化します。
発生から時間が経つほどカビは根深く、生地に浸透するように繁殖し、除去・清掃する難易度も増していきます。
カビの状態によっては正しい方法でクリーニングできる
とはいえ、既にカビが生じてしまっている着物であっても、発生から長期間経っていない「白カビ」の状態ならば、応急処置的なクリーニングで一定の改善が期待できます。
しかし、長期間放置され続けて、生地に浸透するように固着し根深く居着いてしまっている黒・こげ茶カビのような場合は、除去することはもちろん、カビを目立たなくする応急処置すらも諦めざるを得ません。
ここからは、着物に繁殖するカビの状態を色で見分けて「白カビ」「黄カビ」「黒カビ(こげ茶カビ)」の3種類に分けて、それぞれの繁殖の進行状態について説明します。
また、それぞれの状況において可能な解決法・対策を紹介していきます。
白い斑点が浮き出ていたら白カビ
着物に白い斑点として浮かび上がるのが白カビです。
この場合、着物を包むたとう紙が黄色く変色しているはずです。
たとう紙は、カビ防止や型崩れを防ぐために着物を包んでおく、吸湿性に優れた和紙です。
たとう紙は吸湿量が増えるにつれ、黄色く変色していきます。
たとう紙の黄色への変色は、いわば「もう吸湿できないから交換して!」という、SOSの信号です。
たとう紙は1枚数百円で購入できますので、できれば年2回の交換をおすすめします。
白カビに関しては早期発見ができれば、まだ比較的、カビは落としやすい状態です。
通常の着物クリーニングサービスに出せば、有機溶剤によるドライクリーニングで、白カビはきれいに除去されます。
これは「丸洗い(まるあらい)」という洗浄方法で、大方10,000円前後で利用可能です。
黄カビまで至ってしまったら「洗い張り」を

白カビを数年間放置するとカビは黄色味を帯びて「黄カビ」となります。
白カビよりも一層頑固で根強い「黄カビ」の繁殖まで至ってしまったら「洗い張り(あらいばり)」という作業が必要となります。
洗い張りは着物を縫い合わせている糸を一度全て抜き、反物の状態にしてから洗って、再度仕立て直す方法です。
洗い張りの価格は反物の状態にするだけなら20,000円程度、反物の状態にしてから再仕立て(縫い合わせ)まで依頼すると約100,000円かかることもあります。
カビ発生から十数年以上経つと修復不能な「黒」「こげ茶」カビに
最初に白カビが発生してから10年以上経過すると、カビの色が濃い茶色や黒色に変色してきます。
カビが黒色・こげ茶色の段階まで進行してしまうと、洗い張りなどを施しても、カビを完全に落として元の色合いに戻すことはできません。
黒・こげ茶カビが発生するころには、着物の生地全体も相当傷んでいるでしょう。
再仕立てなど試みれば、生地の破れ・裂けが発生するかもしれません。
帯からカビ臭を感じたときの対策とは

意外に多いのが、見た目にはカビが発生していないのに、帯からカビ臭がするというケースです。
帯からカビ臭がするという場合、「帯芯」がカビている可能性が高いです。
帯芯は、帯の内側に縫いつけられていて、帯の硬さを調節する布地です。
帯芯は帯の内側にあるため、陰干しでは湿気を完全に取り除くことが難しく、カビが発生しやすい部分となっています。
しかも帯芯は、帯の内側に隠れており、見た目ではカビが生えているのか判断できないので、カビ臭の原因が分かりづらいのです。
帯芯がカビている場合は、帯芯を取り出して洗い張りやカビ取りを試してみましょう。
それでもしつこくカビや汚れ、臭いが残る場合は、帯芯を取り替えるしかありません。
帯芯取り替えは、材質などの違いから価格に幅があり、帯芯と作業の代金を合わせて3,000円~8,000円程度です。
カビが発生する前に知っておきたい予防法

着物のカビ対策で最も重要なのは、カビが発生しないように予防策を講じることです。
カビの発生を予防する上で最も重要なのは、着物を湿気に晒さないことです。
ここでは、ご自宅でできる着物の湿気対策についてご紹介します。
着物を脱いだら収納する前に陰干しする
着用した直後の着物は、汗や空気中の湿気を多く含んでいます。
そこで、桐箱などに収納する前に必ず、風通しの良い室内で半日ほど陰干しをしましょう。
直射日光は着物の変色を導く恐れがあるため、陰干しにしてください。
また、陰干しの際に着物にシミや汚れがついていないか、こまめにチェックすることも大切です。
シミがついたまま保管してしまうと、時間の経過とともにシミが定着して落ちにくくなってしまいます。
自分で対応するのが難しいような激しい汚れは、陰干し後に着物クリーニングに出すようにしてください。
たとう紙に包んで保管
着物の保管というと桐たんすへの収納が一般的ですが、桐たんすは高価なものです。
比較的安価に手に入る、プラスチックの衣装ケースなどでも着物を保管することは可能です。
また、着物を収納する際には必ずたとう紙に包むようにしてください。
ただし、たとう紙を長く使っていると、湿気を吸ってふにゃふにゃになったり、黄ばんできたりします。
たとう紙の変形・変色は、たとう紙が劣化しているサインです。
たとう紙の汚れや黄ばみは着物に付着して、汚れを着物本体にも移してしまうことがありますので、定期的に交換しましょう。
除湿剤やすのこを使う

着物を保管する際には、着物を収納するたんすや衣装ケースの中と部屋の、両方の湿度を管理しましょう。
部屋の湿気対策には据え置きの除湿剤や除湿器を、たんすや衣装ケースの中にはシート状の除湿剤を使うと便利です。
その際、着物に直接触れると変色等の原因になるため、除湿剤はたとう紙の上に設置するなど置き場所に注意してください。
また、除湿剤は長く使っていると効力が薄れてきますので、定期的にチェックして取り替えるようにしましょう。
説明書に、有効期限の目安や交換のタイミングの確認方法が記してあるはずです。
プラスチックの衣装ケースを使う場合、底の部分に湿気が溜まりやすい点に注意してください。
例えばケースの底に、数センチの高さを持つすのこを敷いて、その上に着物を乗せていくと良いでしょう。
加えて、高さのあるすのこであれば、下に除湿剤を入れておくこともできます。
年に2~3回虫干しをする
着物や帯の生地に湿気がこもるとカビの原因となるので、定期的な「虫干し」をおすすめします。
虫干しとは、衣類や書物などを保管場所から出して外気に晒す、日本の昔ながらの習慣です。
天気が良い日を選び、梅雨明けや初秋など、湿気の少ない時期を選んで年に2~3回程度行うと良いでしょう。
帯を解して、帯芯の状態で虫干しすると、より根本的なカビ予防となります。
こまめに換気する

虫干しは手間が少しかかりますが、換気ならば普段から比較的手軽に実践できます。
昔の木造住宅に比べて現在の家屋は密閉性が高いため、湿気がこもりやすくなっています。
着物を保管しているたんすやケースを開け、窓も開けて、換気するだけでもカビ予防に効果があります。
普段から着用する
日常的に着物を着用することが、最も有効なカビ対策になります。
喪服は頻繁に着るものではありませんが、訪問着などは結婚式などのセレモニー以外にも観劇やお食事などの気軽な機会や、振袖ならお正月の初詣などにも着てみてはいかがでしょうか。
着ることで外気に晒されるので、湿気が溜まらずカビ予防になります。
もちろん、着用後の陰干しは忘れずに行うようにしましょう。
自宅でできるカビの応急処置は?

湿気対策にどれだけ気を使っても、着物にカビが生えてしまう可能性は排除できません。
そこで正しい応急処置と間違った応急処置法も解説しますので、参考にしてみてください。
着物のカビは乾いた布で払う
着物のカビを応急的に落とすためには、カビの生えている部分を乾いた布で軽く払ってカビを落とす方法がおすすめです。
軽く払うほうが良いのは、力を入れて圧迫しながら拭くと、カビが繊維の奥に入り込んでより落としにくくなってしまうためです。
ここからは、さらに具体的な手順をご紹介します。
マスク・手袋は着用必須
作業の際に飛び散ったカビの胞子を吸引してしまうと、アレルギーや感染症を引き起こす可能性があります。
カビを落とす作業をする時には、マスクと手袋を必ず着用するようにしてください。
また、免疫力や抵抗力の低い赤ちゃんがいる場所では行なわないようにしましょう。
加えて、これらを再利用すると、カビ菌をまき散らしてしまうことになりますので、使用した布・手袋・マスクはすぐに廃棄しましょう。
屋外で行なう
カビを落とす作業は、着物を着物用ハンガーにかけて屋外で行ないましょう。
ベランダや庭に物干しがあればそれを使うのが便利ですが、カビが移らないようにほかの衣類は外しておきます。
天候が悪い・屋外に場所がないなどの理由で室内で行う場合には窓を大きく開けて風通しを良くしておきます。
その際、畳や壁、家具など屋内にカビの胞子が落ちて付着しないように、養生をしっかりとしておきましょう。
着用のタイミングまで陰干ししておく
カビが目立たなくなったら、風通しの良い室内で陰干ししておきましょう。
着用までの間にも、なるべく水分を飛ばしておくためです。
着物に発生したカビのやってはいけない応急処置
着物にカビが生えてしまった場合、ホームケアでなんとかできるのではと考えることがあります。家庭で施した応急処置が、着物にとって大きな負担をかける原因となってしまうことも考えられます。
着物のカビに対してやってはいけないケアの方法をまとめました。
NGなやり方1:濡れタオルで拭くとカビがさらに繁殖する
続いて、やってしまいがちなNGな応急処置法についてもご紹介しておきます。
洋服のカビ対策では、「よく絞ったタオルでカビ部分を水拭きする」という方法もあるようなのですが、これは「その後、洗濯機で洗うこと」を想定した方法です。
着物の多くは洗濯機で洗うことはできないため、この方法は使えません。
むしろ、水拭きしたことで着物が水分を含んでしまい、さらにカビが繁殖しやすい環境を作ってしまう可能性があるのです。
NGなやり方2:消毒用エタノール等での除菌は着物を傷める
着物のカビ対策には消毒用のエタノールはおすすめできません。
着物に多く使われる素材である絹(正絹)は非常にデリケートな素材で、湿気だけではなくさまざまな成分に対して弱いのです。
生地や染めの状態によっては、エタノールとの接触によって色落ち・変色などが起こってしまう可能性があります。
着物をクリーニングに出す際のポイント
カビが生えてしまった着物をクリーニング店に依頼する場合、いくつかのポイントがあります。
場合によってはクリーニング店に断られる場合もあるので細心の注意が必要です。
ここでは、着物の汚れとクリーニングに対する考え方のヒントをまとめました。
ドライクリーニングではカビは取れない
ドライクリーニングは、揮発性がある石油系溶剤を使って衣類を洗う手法を取ります。
目的としては衣類のカビ汚れを落とすものではなく、日常的な汚れを取るための技術です。
実際にカビ汚れがあるものは、ほかの衣類への汚染も避けるためにクリーニングを断ることもあるようです。
また、一般的なドライクリーニングは、洋服に対するクリーニング技法であり、和服(着物)のクリーニング工程とは異なります。
また、クリーニング店に着物に対する専門知識や、着物クリーニングに対する設備がなければ対応できない場合があるため、着物クリーニングが可能な専門店に依頼をしてください。
カビ汚れの場合は、ピンポイントの染み抜きが必要になります。
カビがひどい場合は染色補正も必要
着物に生えたばかりの白カビであれば、払うほか虫干しするなどの対処できれいにすることができます。
覚えのない食べこぼしに生えたカビなど色素系のカビが生えてしまうこともあり、生地にシミがついてしまうケースも見られます。
汗ジミに繁殖したカビなども同様です。このようにクリーニングで落ちないシミに対しては、染み抜きを行なったのち、染色補正を行なうことも一案です。
染色補正とは、着物の染の技法を使って生地の変色部分に色修正を施す技術です。これによって着物を限りなく元に近い状態に戻してもらえます。
染色補正は、技能士と呼ばれる国家検定試験に合格した人が施します。着物のカビ汚れを落としたい場合は、染色補正ができる店を頼ると良いでしょう。
カビの生えた着物は買い取ってもらえる?

「こんなカビが生えた着物なんて売れるのかな…」と思わずに、着物買取業者の査定に出してみることをおすすめします。
査定員に実際に見てもらえば、どの程度までのカビや汚れなら買い取ってもらえるかがハッキリします。
カビが広範囲にあると買取が難しい場合がありますが、「着物の価値が高く、カビの点を差し引いても買い取るべき」という判断する可能性もあります。
着物が何枚もあって収納場所に困るなら出張買取がおすすめ
自宅に着物が何枚もあったら、汚れているものもあるでしょう。
着ないままたんすにしまったままにしていると今以上にカビや汚れが広がる恐れがあります。
そこで、保存状態が悪くならないうちに着物を売って収納場所をスッキリさせてしまいましょう。
多くの買取業者が自宅で査定員が査定する「出張買取」を提供しています。
出張買取は査定、訪問料、キャンセル料が無料なので、汚れてしまった着物が何枚かあるなら売却もおすすめです。
まとめ

今回は、着物に発生するカビの原因と予防法、そして、いざというときのための応急処置についてご紹介してきました。
着物にカビが発生したときの応急処置はあくまでも一時的なものです。
着物のカビ対策として最も重要なのは、日々の手入れによるカビの予防です。
今回ご紹介した着物の収納・保管方法を参考に、お持ちの着物を良い状態に保てるように工夫してみてください。
将来的に不要になって買取に出すことを考えても、カビが生えていると大きく買取価格が下がってしまいますから、その面でもカビの予防は重要です。
ご自宅の着物の保管方法を今一度見直して、カビ対策ができているか、確認してみることをおすすめします。