着物の「手縫い」と「ミシン縫い」の違い

着物の製造過程はとても複雑ですが、今回はその中でも「縫い」の工程に着目していきます。
着物の縫い方には「手縫い」と「ミシン縫い」という2種類の手法があります。
それぞれにメリットとデメリットがありますが、どちらの手法で縫われた着物を買うかによって、強度や特性などにおいて後々まで響く大きな違いが生じます。
着物の購入を検討されている方はぜひ、「縫い」の手法を参考にしてみてください。
手縫いとミシン縫いの違い


元々は全ての着物は手縫いで作られていましたが、明治時代にミシンが普及してからは、ミシン縫いで作られる着物も徐々に増えていきました。
終戦後、繊維製品(既製服)が日本の主な輸出品となって以降はミシンが爆発的に使用され、1947年頃から家庭用ミシンも普及し始めました。
ミシン縫いと手縫いでは、着物の「強度を出す」という目的のために採用されている方法が大きく違います。
それぞれの違いを確認してみましょう。
手縫いの特徴
手縫いは基本的に一本の縫い糸で縫われており、衝撃による損傷を避けるために、負荷を逃がすような工夫がなされています。
針を斜めに入れて布への負荷を少なくし、縫い目に等しくゆるみを入れていくことで遊びを作っています。
手縫いは人の手にしかできない絶妙な力加減で刺繍を行うので、表に縫い目を残さず縫うことができます。
手縫いの代表的な手法としては、「三つ折りくけ」「本くけ」(※解説は当コラム最下部へ)などがあります。
ミシン縫いの特徴
ミシン縫いは布に対して直角に針を入れていき、糸は上糸下糸の2本を使い、大きい針で絡ませるように縫うことで、強度を最大限まで高めています。
ただし、ミシンを使うと針が布地を貫通するため、どうしても縫い目が表に残ります。
手縫いとミシン縫い、それぞれのメリットデメリット

手縫いの着物には、古くから受け継がれるだけある伝統的な長所があります。
他方で、ミシン縫いの着物は機械製造特有の再現性や強度を誇ります。
ここからは、手縫いとミシン縫いのメリットとデメリットを、細かく見ていきましょう。
手縫いのメリット
人の手で丁寧に行われる手縫いには様々なメリットがあります。
代表的な利点として以下の3点について紹介します。
・手作業ならではの緩急と風情が表現できる
・「仕立て直し」が可能である
・生地を守る造りになっている
手作業ならではの緩急と風情が表現できる
手縫いのメリットの一つは、手作業により力の塩梅が細かく調整できる点です。
強く締めるように縫われる点と、優しく包み込むように縫われるところが組み合わさり、見た目にも緩急と風情のある、着心地のいい着物が出来上がります。
「仕立て直し」が可能である
手縫いの着物は「仕立て直し」ができるのが非常に大きなメリットです。
手縫いだとミシン縫いのように生地に穴を空けないので、着物として完成形になった後も、糸を解いて一枚布の状態に戻すことができます。
そして、改めて別の着物として縫い直しするのが「仕立て直し」です。
手縫いの着物は仕立て直しを前提に作られており、糸を解いてサイズ調節や別の種類に縫い直し、子供たちに受け継ぐなどして長い間使い続けることができます。
生地が痛んだ場合でも長襦袢として用いたり布団に使うなど、手縫いの着物はリサイクルできるのです。
生地を守る造りになっている
手縫いの場合、着物に掛かる負荷を糸に逃がすように縫っているので、生地が裂けるということがありません。
縫い目に意図的に遊びが入れられているのは、生地が破れる前に縫い糸が千切れるという作りにするためです。
生地は無傷なので縫い直しをすることで、改めて着物として再生させることができます。
手縫いのデメリット
手作業ゆえの繊細さや工程の複雑さから、手縫いにはデメリットも存在します。
主として以下の2点が挙げられます。
・破れや糸の千切れが起きやすい
・ミシン縫いよりも売値が高額である
具体的に見ていきましょう。
破れや糸の千切れが起きやすい
手縫いのデメリットとしては、何度も洗うことで生地に負荷がかかり、薄くなった箇所が破れやすい点が挙げられます。
破れるといっても、手縫いの場合は上述のように生地は破れず、先に縫い糸が千切れることが多いので、縫い直すことが可能です。
ミシン縫いよりも売値が高額である
自分で着物を縫い直すと失敗する可能性もありますし、業者に頼むとお金がかかります。
そして新品の場合もやはり、手縫いで仕立てられた着物は代金が非常に高価になっています。
ミシンが普及してから大量生産が可能となったため、着物が以前よりも大幅に安く購入できるようになりました。
手縫いで着物を仕立てると、ミシン縫いと比べて時間もかかってしまいます。
最近では海外に工場を構えて現地で手縫いをすることで費用を抑え、安価で高品質な着物を提供するメーカーも増えてきました。
それでもミシン縫いの着物と比べると、比較的高価となっています。
ミシン縫いのメリット
ミシン縫いのメリットはなんと言っても丈夫な点です。
着物を日常的に着る人の中には、丸洗いしたいという方も多いかと思います。
洗濯機で洗浄する際、手縫いの着物でしたら糸がほどけてしまう可能性がありますが、ミシン縫いで頑丈に仕立てられた着物は解ける心配がほとんどありません。
週に数回など頻繁に着物を着られる方は、ミシン縫いの方が手入れが楽でしょう。
ミシン縫いのメリットのもう一つは値段で、手縫いに比べて比較的安価な製品が多いです。
着物を複数枚購入する場合も、全て手縫いのもので揃える場合と比べればそこまで金銭的に負担になりません。
ミシン縫いのデメリット
ミシン縫いで仕立てられた着物は、とても丈夫に仕上がります。
しかし、ミシン縫いの工程で着物の布地を針が貫通します。
そのため、縫い糸を解いて反物とした際に針穴が残ってしまい、仕立て直しが出来ません。
元来、着物は汚れると全部糸を解いて反物の状態にしてから洗うものでした。
染め直しをしたい時も糸を全て解いてから作業が始まります。
仕立て直しをすることによって清潔で良好な保存状態を維持できれば、3代にわたって引き継がれるような逸品にすることも可能です。
このような、古来から存続する手縫い着物の利点である仕立て直しが、ミシン縫いの場合にはできないという点がデメリットです。
高級着物が手縫いである理由

加賀友禅・江戸小紋・大島紬などの、有名かつ高級な着物は必ず手織りで仕立てられます。
その理由を考察してみましょう。
素材が高級だから
伝統工芸品に指定されているような着物は、刺繍前の反物の時点で高級な布地であることが多いです。
高級な布地ですから、ミシン織りで穴を空けることは避けたいですし、生地を守って糸が切れるような構造になっている手織りで、なるべく長持ちするように仕立てていきます。
製造者が腕利きだから
更に、反物を一枚の着物に仕立てる「和裁士」の人数は、年々少なくなってきています。
名のある高級着物は、手縫い仕立てのプロである和裁士によって製造されます。
和装士が手間と時間をかけて仕立てる着物ですから、高級とも認められますし高額にもなるでしょう。
高級着物の製造者は、自身の持つブランド価値を維持するためにも、また購買者の期待に応えるためにも、安く速く着物が製造できるからといってミシン縫いを採用することはありません。
人間国宝である着物作家であればなおさら、ミシン縫いをすることはまずないでしょう。
手縫いとミシン縫いの違い:まとめ

着物の「手縫い」と「ミシン縫い」の違いを紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
どちらか一方が決定的に優れているということはなく、それぞれにメリットとデメリットを有しています。
着物の着用頻度や予算などから考えて、自分にとってメリットの大きい着物を選んでくださいね。
また、着物を買ったものの着なくなってしまったら着物買取に出すことを検討してみましょう。
高く売れるためにやっておくことや高い着物かどうかの見分け方などは、下にある「こんなコラムも読まれています」をご覧ください。
※三つ折りくけと本くけ…くけは和装品の製造で用いられる縫い方です。
織った布と布を縫うことを意味し、イメージはまつり縫いに近いです。
本くけは双方の布端を折り、重ね合わせて縫う方法で、縫ったときの糸が表から見えなくなります。
三つ折りくけは、布端を三つ折りにして折り山の内側の部分から針を出し、縫っていく方法です。
三つ折りくけですと表からのみ僅かに見えます。
それぞれ綿入れの袖口、単衣の袖口等で使用されます。

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