長くレコード文化が続くように。「SON OF THREE SOUNDS」にインタビュー

長くレコード文化が続くように。「SON OF THREE SOUNDS」にインタビュー

愛知県名古屋市の栄地区にある「SON OF THREE SOUNDS(サン・オブ・スリー・サウンズ)」は、ヒップホップ系を除くオールジャンルの音楽を扱うアナログレコード専門店です。

オーナーの溝渕康夫さんは、幼少期からレコードに親しみ、楽器やオーディオに関わるお仕事も経験した根っからの音楽好き。

「音が鳴るところばかりで仕事をしてきた」とお話される姿には、音楽とアナログレコードへの愛情を感じます。

今回はSON OF THREE SOUNDSで扱う商品のラインナップや、接客、商品のメンテナンスにかけるこだわり、アナログレコードが持つ魅力についてお話を伺いました。

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名古屋の中心街で43年。音質にこだわるレコード専門店

 名古屋の中心街で43年。音質にこだわるレコード専門店

――本日はよろしくお願いします。まず、お店の沿革について教えてください。

溝渕さん(以下、溝渕):名古屋市名東区の一社で1980年にオープンした「THREE SOUNDS COMPANY(スリー・サウンズ・カンパニー)」という店が、当店の前身です。

THREE SOUNDS COMPANYは3人のオーナーで経営されていたのですが、最後まで残った方が私の前職の先輩でした。そこへ私が1986年に入社し、2001年から店名を「SON OF THREE SOUNDS(サン・オブ・スリー・サウンズ)」と変更して受け継ぎました。

――溝渕さんご自身についても教えてください。

溝渕:私はもともと楽器が好きで、中学時代からギターを弾き、バンド活動もしてきました。

最初は楽器の商社として知られる荒井貿易に勤め、その後も楽器やオーディオ関連の仕事をして、音が鳴るところばかりで仕事をしてきましたね。

レコードは小学生時代から集め始めて、現在は個人でも4,000枚ほど持っています。レコードと同じくして、「ミュージック・ライフ」や「ティーン・ビート」、「音楽専科」、「ミュージック・マガジン」など音楽雑誌もたくさん読んでいました。

――ありがとうございます。お店に来られるのはどのような方でしょうか?

溝渕:当店がある栄地区は名古屋の中心街で、岐阜方面や三河方面などからもアクセスしやすい場所です。

お客様は50代~70代くらいの方が中心ですが、最近は若い世代の方も増えています。アナログレコードブームが進んでいますし、今年(2023年)春に名古屋市内で新しいレコード店が複数オープンしたことも理由だと思います。

――SON OF THREE SOUNDSのこだわり、特徴は何でしょうか?

溝渕:レコードならではの、膜が一枚はがれたような「乾いた音」を楽しんでいただきたいので、盤質やジャケットの状態は重視しています。

特に1975年頃までに作られたレコードは、音質の違いが顕著です。デジタル録音が始まったのが1980年以降と言われていますが、早いアーティストだと1978年頃からデジタル録音を始めました。

そのためレコードの形をしていても、音質はCDとあまり変わらないレコードもありますので、当店ではなるべく1978年以前のレコードを扱うようにしています。

一枚ずつ丁寧に手洗い。「針飛び」がないか念入りに確認

――レコードの状態については、どのようにチェックされるのでしょうか?

溝渕:価格に関係なく、一枚一枚丁寧にレコードを洗ってしっかり乾燥させ、裏表の盤を聴いています。針飛び(レコードについた傷や汚れによって針が飛び、音が飛んだりループしたりしてしまうこと)がないかを確認して、針飛びがあるレコードは店頭に出しません。

40~50年も前のレコードだと、かびが生えていることもあります。丁寧に洗えば落とせることが多いので、しっかり洗って、またかびないように十分乾燥させています。

――音の確認まですると、とても労力がかかりそうですね。

溝渕:私一人で店をやっていますので、一枚一枚洗って、乾かして、音を確認し、店頭に出すという作業はやはり労力と時間がかかりますね。一日にできる仕事の量は限られます。

チェックを簡単にするということもできますが、このスタイルで40年以上やっていますので、もう手が抜けなくて。でもその甲斐あって、これまでお客様からクレームを受けたことはほとんどありません。

「音楽の道案内」をしつつ、自由な目線も大切にしたい

 「音楽の道案内」をしつつ、自由な目線も大切にしたい 溝渕さん個人コレクションのLittle Featレコード例1

――商品ラインアップについて教えてください。

溝渕:ヒップホップ系を除くオールジャンルを、アナログレコード(LP・EP)のみで扱っています。

特に力を入れているのは、アメリカのロックバンド「リトル・フィート」を中心とする70年代のロック、スワンプ・ロック、シンガーソングライターです。

一方でジャズやソウル、ブルースなども並べていますし、ロックやジャズの廃盤・オリジナル盤や、女性ジャズヴォーカルなども入荷しています。

ちなみに「リトル・フィート」と出会ったのは1972年、私が21歳の時です。Little Feat /“Sailin’Shoes”がたまたまレコード店で目に留まり、ジャケットの奇抜さが気に入り購入してハマりました。

翌年、1973年にリリースされた彼らのサード・アルバム Little Feat / “Dixie Chicken”は、同年の夏にアメリカへ行く友人に購入を依頼して入手した思い出のレコードです。

小学校6年生の時からレコードを集め始め、やはりビートルズの影響も強く受けましたが、一番好きなのはアメリカンロック系ですし、リトル・フィートとの出会いはその後の音楽人生を変化させ、大きな影響を受けました。

 溝渕さん個人コレクションのLittle Featレコード例2 溝渕さん個人コレクションのLittle Featレコード例2:右上が“Dixie Chicken”

――お客様はどのような好みの方が多いのでしょうか?

溝渕:今はジャズ、ロック、シンガーソングライター、どんなジャンルであっても、王道といわれるようなアーティストのレコードを探す方が多いですね。

私が個人的に好きなのはヒット曲を出していないようなアーティストなので、お客様に勧めると新鮮に思われるようです。でもどこか好みにマッチして、継続的にお店に来てくださるようになった方もいらっしゃいます。

ホテルのコンシェルジュのような、音楽の道案内のような、そんな立ち位置でお客様に接しているかもしれません。

レコードの針飛びがないか確認するときも、「このレコードはあのお客さんに勧められそうだ」「あの方がこういう曲をお好きだったな」と思いながら聴いています。

一方で、初めていらっしゃった方には、こちらから声をかけないようにしています。お客様のほうから何か訊かれて話が発展することはありますが、なるべく自由な目線で店内を見ていただきたいからです。

ダメージを避けるため、スキップ再生はしない

――店内でレコードの試聴はできますか?

溝渕:はい。新品と特価のレコード以外は、どんなに高価なレコードも、ご要望があれば店頭で聴いていただけます。

ただ、レコードに対してダメージを与えないよう、当店では試聴の際に曲をスキップすることはありません。

私は60年以上もレコードを触っていますので傷つけることはまずないのですが、それでもお客様がなるべく良い状態で購入できるよう、スキップはしていないです。

アナログレコードは在庫が何枚もあるわけではなく、「この一枚が売れたら、次の入荷は何年先になるかわからない」という世界ですから。

レコードとしては珍しいものの状態に懸念点があるという商品についても、お客様にまず説明して、聴いて判断していただきます。

音に奥行きがあるアナログレコード

――アナログレコードの魅力について、あらためて教えてください。

溝渕:CDの音楽と比較すると、レコードの音は柔らかいという表現をされる方が多いです。また、オーディオスピーカーから音を流した場合、CDは音が横一列に並ぶような聞こえ方になります。ドラムやボーカルが前に出てきたり、引っ込んだりという奥行きが味わえるのは、アナログレコードならではでしょう。

オリジナル盤か、日本盤かでも音質に違いがあるといわれています。日本盤だとオリジナルよりも少し線が細く聞こえることから、当店のお客様のなかにも、楽器やボーカルの輪郭、奥行きのある音を求めてオリジナル盤重視の方がいらっしゃいますね。

ただ日本盤のレコードにも遜色ない音質のものはありますし、使うオーディオ機器によっても音の立ち上がり方が変わります。

レコードに録音されている時点で音は加工されているわけですが、それでも生演奏に近いような音を楽しめるオーディオを使うと、やはり違いを感じられると思います。

どなたでもそうしたオーディオをそろえられるわけではないですし、聴く部屋の広さによっても変わりますので、オーディオ(ステレオ)とレコードとの関係は奥深い世界ですね。

限りあるアナログレコード。長く文化を続かせたい

――今後について、何かご計画がありましたら教えてください。

溝渕:コロナ禍で栄地区へいらっしゃる高齢の方が減ったり、お付き合いのある海外のお店も在庫が減ってきていたりしますので、仕入れの難しさを感じています。

当店では商品を丁寧に綺麗にして、品質のチェックも一枚一枚やっていますが、やはりお客様の欲しいものが置いてあることも大切です。

バックヤードにある商品を少しずつ店頭に出していますが、今後は入荷を増やしていきたいですね。

――アナログレコードに関心がある方へメッセージをお願いします。

溝渕:古いレコードは、ワンオーナーではなくさまざまな方に愛されてきた歴史を持っています。傷がついていることもありますが、当店では可能な限り丁寧にメンテナンスをしてご紹介しています。

保管方法について少しお伝えすると、「反り」に気を付けていただくのはひとつのポイントです。

ジャケットを垂直ではなく斜めの状態で置いたり、見開きになっているダブルジャケットを棚のきつい空間に入れておいたりすると、レコードが反ってしまいやすくなります。

ダブルジャケットの場合はいったんジャケットからレコードを引き抜いて、レコード本来の袋とじではなく、開いた真ん中に挟んでおくと反りは抑えられるはずです。

1980年以降は輸入盤のレコードジャケット自体がすごく薄い紙に変化し、薄くなったジャケットにファクトリー・シールドしていますので、年数が経つと反りやすくなります。

この場合、ファクトリー・シールドの一部に切れ込みを入れておきますと、ジャケット、レコードの反りを軽減できますので、年代によっては気を付けていただければと思います。

私自身も限りあるレコードを大事にして、レコード文化が続くようにしていきたいという思いがありますし、今後レコードを扱う方、お店を開く方にもそんな思いを持っていただけたら嬉しいです。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

今回お話を伺った人
溝渕康夫さん

溝渕康夫さん

「SON OF THREE SOUNDS」オーナー

公式HP

https://www.sonofthreesounds.com/