薩摩切子にはどんな歴史がある?3つの特徴と製造工程・技法を徹底解説

薩摩切子は、鹿児島県の伝統工芸品として知られるカットグラスです。
その歴史は古く、江戸時代後期から薩摩藩で作られ始めたとされています。
薩摩切子は透明感のあるガラスに繊細な文様が施され、独特のぼかしと鮮やかな色合いが特徴です。
現在では幻といわれるほど希少な存在となっており、骨董品としても高い価値を持っています。
本記事では、薩摩切子の歴史や特徴にくわえて、製造工程や価値が高い理由などについても詳しく解説していきます。
※本記事の内容は、必ずしも買取価格を保証するものではございません。予めご了承下さい。
薩摩切子とは
薩摩切子は、幕末から明治初期にかけて薩摩藩(現在の鹿児島県)で生産されたガラス細工・カットグラスのことです。
「薩摩ガラス」や「薩摩ビードロ」とも呼ばれます。
一時途絶えて「幻の切子」「幻のカットグラス」と呼ばれていましたが、現在は復刻生産されています。
復元された「島津薩摩切子」は、現在鹿児島県の伝統的工芸品に指定されています。
薩摩切子はその希少性と芸術性の高さから、骨董品としても高く評価されています。
特に、明治時代に製造が途絶える前に作られた「古薩摩切子」は非常に希少価値が高く、骨董品買取市場でも高値で取引されています。
薩摩切子の歴史
ここからは、薩摩切子の歴史について詳しく見ていきましょう。
薩摩切子の誕生
薩摩でのガラス製造は江戸時代末期の1846年、薩摩藩第27代藩主・島津斉興(しまづなりおき 1791-1859)の時代に始まりました。
医薬品の保存に必要なガラス瓶や容器を作るため、江戸から腕の良いガラス職人である四本亀次郎(よつもとかめじろう 生没年不詳)を招いてガラス製造を行いました。
薩摩切子が美術工芸品として飛躍的に発展するのは、第28代藩主・島津斉彬(しまづなりあきら 1809-1858)の時代です。
列強の脅威に直面する中で日本の近代化を強く志向した斉彬は、西洋の科学技術や産業を積極的に導入する「集成館事業」を推進しました。
ヨーロッパで流行していたカットグラスに魅せられた斉彬は、その集成館事業の柱の1つとして、海外貿易品や贈答品として通用するガラス工芸に取り組みます。
当時の日本にはカットグラスに関する専門的な知識や技術がほとんど無かったため、外国の書籍を翻訳し、数々の試行錯誤を重ねます。
そんな中で1851年、銅粉を使った紅色ガラスの発色に成功し、現在でも薩摩切子の代名詞となっている「紅ガラス」が誕生しました。
これが美術工芸品としての薩摩切子誕生の瞬間と言えるでしょう。
この「薩摩の紅ガラス」は日本で初めて発色に成功した赤いガラスとして、将軍や諸侯への贈答品としても用いられました。
そして、紅以外にも藍・緑・黄・紫などの深く鮮やかな色のガラスが開発され、透明ガラスの上に厚く色ガラスを被せる「色被せガラス」の技法が確立されました。
薩摩切子の特徴である「ぼかし」の美しさも、この厚い色ガラスにカットを施すことで生まれたものです。
薩摩切子の衰退
急速な発展を遂げた薩摩切子ですが、その衰退も急速なものになってしまいました。
大きな要因の1つが、島津斉彬の急逝です。
薩摩切子を強力に推進した斉彬が亡くなったのは、藩主就任からわずか7年後のことです。
彼の後を継いだ藩主によって集成館事業は大幅に縮小され、薩摩切子の生産も停滞してしまいます。
そんな中で1863年には薩英戦争が起こり、薩摩藩のガラス工場は焼失してしまいます。
また、明治維新によって廃藩置県と藩営事業の見直しが行われ、薩摩切子の事業はさらに縮小してしまいます。
そして、西南戦争(1877年)の前後だったと言われますが、ついに薩摩切子の製造は完全に途絶えてしまいました。
島津斉興が藩内でのガラス製造を始めてから、わずか30年余りでのことでした。
薩摩切子の復刻
薩摩切子の復刻の機運が高まったのは、薩摩切子の製造が途絶えてから約100年後、1982年に鹿児島で開催された展覧会がきっかけでした。
途絶えていた技術の再現は困難を極めましたが、粘り強く研究と試行錯誤が行われました。
その甲斐あって、1985年には島津家の末裔が運営する株式会社島津興業によって「薩摩ガラス工芸株式会社」が設立され、1986年には本格的な製造が開始されました。
1989年には、薩摩ガラス工芸の薩摩切子が鹿児島県の伝統的工芸品に認定され、薩摩切子の復刻が成ったと言えます。
復元された薩摩切子も、その高い品質と美しさは国内外で高く評価されています。
薩摩切子の現在
現在、薩摩切子では、江戸時代当時(古薩摩切子)の技術や意匠を忠実に再現した「復元薩摩切子」と、古薩摩切子の技術に現代のライフスタイルや感性を取り入れた「創作薩摩切子」が製造されています。
復活させた伝統を受け継ぎながら時代の流れにも適応し、再び途切れてしまうことのないように新しい歴史を刻み続けていると言えるでしょう。
なお、復元薩摩切子は、江戸時代に作られた古薩摩切子を収蔵・展示している「尚古集成館」が監修しています。
復元薩摩切子を納める木箱の蓋裏には、尚古集成館監修であることを明記したうえで落款(らっかん)が捺印されています。
薩摩切子の3つの特徴
薩摩切子には、ガラス工芸としてどのような特徴があるでしょうか。
ここでは、薩摩切子特有の「ぼかし」の技法、色彩の特徴、カットの特徴という3つの観点から、薩摩切子の特徴を見ていきます。
ぼかし
薩摩切子の大きな特徴のひとつが、「ぼかし」と呼ばれる技法です。
薩摩切子の「ぼかし」とは、ガラスの厚みと光の透過によって生まれる、色のグラデーションを表現する技法のことです。
薩摩切子では、透明なガラス素地の上に、1mmから5mmという厚い色ガラスを被せます(一般的な江戸切子では0.5mm程度)。
この厚い色ガラスの層に職人がカット(削り)を施すのですが、カットが深い部分は色ガラスが薄くなり、逆にカットが浅い部分は色ガラスが厚く残ります。
色ガラスが薄くなった部分は光の透過によって色が淡く見え、色ガラスが厚く残った部分は光が透過しにくいため色が濃く見えます。
このような色の濃淡のグラデーションが、「ぼかし」の正体です。
ぼかしによって、ガラスの透明感が損なわれることなく、柔らかで優美な印象を与えることができます。
薩摩切子に欠かせないぼかしの技法ですが、熟練の職人でも思い通りのぼかしを施すのは容易ではないというほど、非常に高度な技術を必要とします。
ぼかしの技法を受け継ぐ職人は非常に少なくなっており、薩摩切子の希少性の要因にもなっています。
薩摩切子の色彩
薩摩切子の代表的な色彩には紅・藍・緑・黄・島津紫などがあり、それぞれガラス生地に金属を添加することで表現されています。
添加する金属の種類や量を調整することで、様々な色合いを作り出すことができます。
- 紅…薩摩切子を象徴する赤色。金を原料として発色させる。
- 藍…落ち着いた深い青色。コバルトなどを原料として発色させる。
- 緑…深く落ち着いた緑色。銅などを原料として発色させる。
- 黄…温かみのある明るい黄色。硫黄などを原料として発色させる。
- 島津紫…島津家の家紋にも見られる紫色。マンガンなどを原料として発色させる。
これらの色彩が「ぼかし」と合わさることで独特の深みと温かみを生み出しているのが、薩摩切子の色彩の特徴と言えるでしょう。
このほかにも、「透(すき)」と呼ばれる無色の薩摩切子や、複数の色を組み合わせた「二色被せ(にしょくぎせ)」や「三色被せ(さんしょくぎせ)」といった新しい色彩の製品もあります。
伝統の技法と現代の職人の技術によって、薩摩切子の美しい色彩は生み出されていると言えます。
薩摩切子のカット
「切子」という名の通り、薩摩切子の美しさを引き立てているのが繊細なカットです。
薩摩切子のカットは、全て職人の手作業で、0.1mm単位という繊細さで行われます。
この繊細なカットによってガラス内部で光を乱反射させ、独特の輝きを生み出します。
このカットの文様と「ぼかし」によって、薩摩切子はより複雑で幻想的な光の表情を見せます。
薩摩切子のカットによる主な文様としては、以下のものがあります。
- 輪結び紋(わむすびもん)…輪が結びついたような文様。縁起が良いとされる。
- 薩摩縞(さつまじま)…縦縞や斜め縞を基本とした文様。
- 魚子紋(ななこもん)…小さな魚の卵や鱗のように見える細かい文様。子孫繁栄の意味合いを持つ。
- 段差付剣菊紋(だんさつきけんぎくもん)…菊の花をモチーフにした文様。
- 八角籠目(はっかくかごめ)…八角形の籠の目を模した幾何学的な文様。
- 麻の葉小紋(あさのはこもん)…麻の葉を模した伝統的な文様。成長や健康を願う意味がある。
- 亀甲紋(きっこうもん)…亀の甲羅を模した六角形の文様。長寿や吉兆の意味が込められている。
- 霰文(あられもん)…小さな水滴や粒が散りばめられたような文様。
薩摩切子のカットは非常に難易度の高い職人技であり、緻密な計算と熟練の技術があってはじめて美しい文様を表現することができます。
薩摩切子と江戸切子との違い
薩摩切子と同じ時代に誕生したガラス工芸として、東京都で生産される江戸切子があります。
同じ時代に誕生したガラス工芸でありながら、薩摩切子と江戸切子にはその特徴に大きな違いがあります。
いくつかの観点から両者の違いを見ていきましょう。
薩摩切子 | 江戸切子 | |
---|---|---|
ガラスの厚み | 厚い(色被せ層が1~5mm以上) | 薄い(1mm程度) |
重さ | 重厚感がある | 軽やかである |
カットの特徴 | 深く大胆なカット | 浅く精密なカット |
見た目 | 温かみがある、色の変化が柔らか | 華やか、明快な色の境界がある |
手触り | ゴツゴツとした感触 | なめらかな感触 |
薩摩切子と江戸切子の違いは、ガラスの厚さと色の表現に対する考え方の違いに起因すると言えるでしょう。
薩摩切子が厚いガラスを深くカットするのに対して、江戸切子は薄いガラスに浅いカットを施します。
その結果、薩摩切子には「ぼかし」が生まれ、江戸切子は明快な色の境界を持つ華やかなガラスに仕上がります。
薩摩切子の製造工程
薩摩切子の製造工程は、大きく「ガラス素地の製造」と「カット」の2つの工程に分けることができます。
特に、カットは薩摩切子特有の美しさを出せるかどうかが決まる、薩摩切子の命とも言うべき工程です。
ガラス素地の製造
まずはガラス素地の製造です。
ガラスの主原料である珪砂(けいしゃ)に、色を発色させるための様々な金属(金・コバルト・銅など)と、クリスタルガラスの透明度を高めるための鉛などを配合します。
それぞれの色ごとに厳密な配合比率が必要です。
調合された原料は、1400℃程度の高温のガラス溶解炉で数時間から数十時間かけて溶かします。
完全に溶けて均一な液状になるまでじっくりと時間をかけ、泡が残らないようにすること、不純物を取り除くことが求められます。
こうして出来たガラス生地を、吹き竿やろくろを使って成形します。
成形後はゆっくりと温度を下げていく「徐冷(じょれい)」を行い、ガラスの歪みやひび割れを防ぎます。
カットと研磨
まずは「当たり付け」といって、成形されたガラス素地の表面に、これからカットする文様の目安となる線を引きます。
次に、当たり付けした線に沿って、ダイヤモンドホイール(回転するダイヤモンド砥石)を使って大まかな文様を彫り込んでいきます(「荒摺り」の工程)。
荒摺りでできたギザギザした表面を、さらに目の細かい砥石でなめらかに研磨していくのが、「石掛け」と呼ばれる工程です。
石掛けで整えられたカット面に、木製やコルク製の磨き車でさらに磨きをかけて滑らかにしていきます(「磨き」の工程)。
手作業で一つ一つ丁寧に磨き上げるため、時間と根気が必要です。
最後に職人が最終的な品質検査を行い、カットの精度・ぼかしの美しさ・輝き・傷や気泡の有無などがチェックされます。
検査を通過した製品のみが、洗浄を経て世に送り出されます。
薩摩切子の製造工程は、機械では代替できない職人の熟練の技と、素材への深い理解があって初めて成り立つものだと言えるでしょう。
薩摩切子の価値が高い理由
このように作られる薩摩切子は価値の高い美術工芸品となっており、骨董品買取市場でも保存状態が良ければ高い買取価格がつくケースは多いです。
「美しいガラス工芸である」という点はもちろんなのですが、価値が高いのにはいくつかの理由があります。
理由①原材料が高い
1つ目の理由は、薩摩切子には上質な原材料・高価な原材料が使われていることです。
全ての製品に透明度が高く美しい輝きを持つクリスタルガラスを使用しています。
クリスタルガラスは、世界の有名ガラスメーカー・バカラでも使われている高価なガラスです。
そして、薩摩切子ならではの色彩を出すのに、金などの高価な金属が使われます。
薩摩切子に特徴的な紅色など、カラーによって非常に高価な原材料を使用しているのです。
理由②熟練の職人技で作られている
ガラス素地の製造、色を付ける金属の配合、成形、徐冷、カット、研磨と、薩摩切子を作るための複雑な工程は、すべて職人の手作業で行われています。
これには熟練した職人の卓越した技術が必要となるため、作品の希少価値が高まります。
薩摩切子の代名詞とも言える「ぼかし」には、職人の長年の経験と高度なカット技術が欠かせないのです。
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