城下町を見守る日本最大の振り子型時計。「松本市時計博物館」にインタビュー
長野県松本市にある「松本市立博物館分館 松本市時計博物館」は、日本と世界各国の古時計を展示する博物館です。
館内にある時計はできる限り動態展示(動く状態での展示)がされており、訪れる人々を「時」の歴史へと誘います。
今回は松本市時計博物館が開館した経緯や展示内容のこだわり、古時計が持つ魅力について、学芸員の小林駿さんにお話を伺いました。
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日本一大きな振り子型時計が出迎える時計博物館
――本日はよろしくお願いします。まず開館の経緯と沿革について教えてください。
小林さん(以下、小林):松本市時計博物館は、松本市が平成12年に策定した「松本まるごと博物館構想」のもとで初めて建設されたテーマ拠点博物館です。この構想は「市域全体を屋根のないひとつの博物館として、自然、文化、生活に関わるすべてのモノ=資産を博物館の資料ととらえ、市民全員が学芸員として博物館を支えることをめざす」ものでした。
当館は松本市立博物館の付属施設として8館目の博物館で、古時計の蒐集家であり、研究者・技術者でもあった本田親蔵氏のコレクションを中心に、全国でも有数の古時計コレクションを収蔵し、市民の皆さんはもとより観光で松本市を訪れた皆さんの触れ合いの場となっています。
外観正面の日本一の大きさを誇る振り子型時計は、城下町松本のランドマークになっています。また、館内にある約110点の古時計はできる限り動いている状態で展示しており、それが古時計コレクションの魅力を引き出しています。
――どのようなお客様が来館されますか?
小林:観光目的で来られる方が多くを占めています。年代は幅広く、人数構成も一人の方から家族連れの方々まで多岐に渡ります。
人間の知恵と、自然の力。時間感覚の歴史を紐解く常設展
――1階の常設展について、内容や見どころを教えてください。
小林:1階の常設展では、時計資料の展示を通して、人々が時計を発明し、時間感覚が形成されるようになった歴史を学ぶことができます。見どころは、「古代の時」コーナーで、映像や資料を通して、日時計、火時計、砂時計発明の変遷を概観していただけます。機械式時計が発明される前の、人間の知恵が集約された自然の力を利用した時計をじっくりとご覧ください。
――2階の常設展では、どのような展示を楽しめるのでしょうか。
小林:先ほどお話した時計蒐集家・本田親蔵氏の古時計コレクションを中心に、日本と世界各国のさまざまな時計を展示しています。中でも、背の高い時計「ロングケースクロック」や、「おじいさんの時計」としても親しまれている「グランドファーザークロック」の趣ある外観と、正時を告げる時報の音色は見どころとなっています。
国や時代を超えて深める企画展
――企画展も開催されているそうですね。展示内容の具体例をご紹介ください。
小林:時計を製造した国や会社、時計技師に着目したり、それぞれの時計がどのような用途で使用されたのかを紹介したりと、さまざまなテーマで特別展示を開催しています。直近に開催した令和5年夏季特別展は、「航海と旅を支えた時計~甦る英国古時計コレクション~」と題し、船旅や旅行を支えた時計を中心に紹介しました。
――他に過去、好評だった企画展がありましたら教えてください。
小林:平成23年度の中央本線全線開通100周年記念特別展「日本の鉄道と時計~世界一正確な運行を支えたモノ~」、平成26年度の夏期特別展「時計から見る世界の国々」、令和2年度に開催した「時の記念日」制定100周年記念企画展「昔のくらしと時計」などは、特に好評を博しました。
懐かしい古時計の音色が、「1秒」の尊さを感じさせる
――古時計の魅力をあらためて教えてください。
小林:昔の人々の生活を支えた時計が、今もなお、チクタクと時を刻み続けているところにロマンが感じられます。ボーンと鳴り響く時報の音色も、古時計ならではの魅力ではないでしょうか。
――最後に、古時計や長く受け継がれるものに関心がある方へメッセージをお願いします。
小林:急速なデジタル化により、若者を中心に時計離れが進んでしまいました。あらゆる情報機器に支配される私たちは、こと時計に関しても、「動いていて当たり前」と考えてしまいがちです。
しかし、少し前までは、時間を知るために様々な苦労がありました。鐘の音を聞いておよその時間しか分からなかったり、毎日ぜんまいを巻いたり……。機械の示す時間に支配されている現代とは違い、自分たちが時計を動かし、時を打っていました。
先人たちの苦労に思いを馳せ、1秒1秒を大切に考えてみてはいかがでしょうか。当館が、皆さんの時間を大切に考える一助となれば幸甚です。
令和5年10月7日(土)に、松本市立博物館が移転新築オープンし、松本市を代表する博物館として、広く開かれた学びの空間を提供します。城下町の中心部に位置する当館と合わせて、ぜひとも足を運んでいただければ幸いです。
今後も当館最大の魅力である動態展示を可能な限り継続しながら、大切なひと時をお楽しみいただける博物館運営に努めて参りたいと思います。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
松本市時計博物館 学芸員 小林駿さん
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