
床の間はあるけれど、掛け軸も生け花もないまま、デッドスペースになっている人は少なくありません。
せっかくの床の間ですから、掛け軸を掛けて和室を華やかに彩ってみてはいかがでしょうか。
この記事では、床の間に掛け軸を飾る時のマナーやルール、また掛け軸の種類と保管方法など床の間と掛け軸の関係と、掛け軸の基本について詳しく紹介します。
床の間に掛け軸かけていますか?

床の間といえば、和室を彩る唯一の空間です。
床の間に掛け軸を飾りたいと思ってはいるけれど、どういったものを飾ればいいのか迷ってしまい、そのままになっている方も多いと思います。
まずは、床の間のと掛け軸の歴史について知ることから初めてみましょう。
床の間とは?
床の間は、和室の一段高くなった空間です。
家の中で最も格式高い部屋に造られており、掛け軸や生け花などで装飾して来客をもてなす場所でもあります。
床の間に背向けて座る席が、最も上位の席といわれています。
床の間の歴史は奈良時代から始まります。
当時、床の間は身分の高い人が座る場所として畳よりも一段高く造られていました。
その流れが江戸時代には庶民にも普及し、今の床の間となりました。
掛け軸とは?
掛け軸とは、書や絵を観賞用に装飾したものです。
昔は、飾るものではなく拝むものとして利用されていました。
時が経つにつれ、人々は季節の花が描かれた作品や美しい言葉の記された作品などを部屋に掛け楽しむようになり、掛け軸は飾るものとして楽しまれるようになっていきました。
掛け軸や生け花は、和室を彩る定番の装飾品です。
季節に合わせて掛け軸の種類を変えて、来客をもてなすという意味で飾ります。
他にも家内安全、夫婦円満、健康長寿を願ったり、運気アップといった風水的な意味を込めています。
床の間に掛け軸を掛けてみましょう

これから床の間に掛け軸を掛けてみようとお考えの方に、掛け軸を掛ける際のルールや掛け軸の取り扱い方について詳しくご紹介します。
- ・床の間のサイズを知る
- ・掛け軸のサイズを知る
- ・掛け軸の掛け方
- ・掛け軸のしまい方
掛け軸は床の間とのバランスによって、見え方も変わります。
掛け軸を美しく見せる基本的な知識を身につけましょう。
床の間のサイズを知る
まずは床の間のサイズを測ります。
掛け軸は、床の間の横幅に対して約3分の1の幅が美しく見えるサイズと言われています。
また、床の間の長さは180cm〜190cmが標準サイズと言われる一方で、丈が短い掛け軸もあります。
掛け軸と床の間のサイズの具体例は以下の通りです。
横幅が一間(約180cm)の床の間
- ・尺五立 61cm×191cm 一般的なサイズ
- ・尺八立 71cm×194cm 少し幅広の掛け軸
横幅が半間(約90cm)の床の間
・半切立 51cm×181cm 書の掛け軸に多いサイズ
下に棚や窓がある床の間
- ・尺五横 61cm×142cm
- ・尺八横 71cm×136cm
掛け軸のサイズを知る
床の間のサイズがわかったら、次に掛け軸のサイズを調べます。
床の間を美しく飾るポイントとして、掛け軸と床の間のバランス感は非常に重要です。
書や画の雰囲気によってサイズを変更すると、全体の趣も変わります。
掛け軸には、全部で6種類のサイズがあります。
【掛け軸のサイズの具体例】
尺五立 | 61m×191cm |
尺八立 | 71cm×194cm |
半切立 | 51cm×181cm |
尺巾立 | 47cm×181cm |
尺五横 | 61cm×142cm |
尺八横 | 71cm×136cm |
掛け軸の掛け方

掛け軸のサイズが決まったら、実際に掛け軸を掛ける時の注意点をご紹介します。
掛け軸は非常に繊細な美術品ですので、正しい扱い方で美しく飾りましょう。
掛け軸の掛け方 順番
1.巻緒を解く
最初に、掛け軸を巻いている紐の端を持ち、ゆっくりと引きます。
巻紐は掛け軸の後ろに回し、右端に寄せておきます。
2.自在金具で高さ調節し掛け軸を掛ける
床の間のサイズによって、適切な高さが変わってきます。
細かい高さまで自由に調整できる自在金具を使って、最もバランスの良い場所に掛けます。
3.矢筈を使用
掛け紐を矢筈に引っ掛け、反対の手で掛け軸下部を支えながら持ち上げます。
掛け軸はまだ巻いたままにしておきましょう。
4.金具に掛ける
高さのバランスを見ながら、自在金具に掛け紐を掛けます。
引っ掛け終わるまで、掛け軸を支える手を緩めないように気をつけましょう。
5.静かに下ろす
矢筈から掛け紐を外したら、両手で掛け軸の両端を持ち、ゆっくりと下ろしていきます。
太巻芯が付いている場合は、忘れずに開いて外します。
6.バランス確認
掛け軸から少し離れて、全体のバランスを確認します。
7.風鎮を掛ける
最後に、掛け軸の下両端に風鎮を掛けて完成です。
掛け軸をかける際のポイント
大切な掛け軸を長く使うためのポイントを3つご紹介いたします。
1.掛軸に影がかからないようにする
掛け軸を掛ける時は、掛け軸に影がかからないようにします。
元々床の間は影にならないように配置されていますが、掛け軸の前に壺や花瓶を置いた場合、光源によっては掛け軸に影がかかってしまう場合もあります。
掛け軸の前に物を置く場合は、光の向きに気をつけましょう。
2.矢筈を使う
掛け軸を掛けるための棒状の道具を矢筈といい、矢筈を使えば高い位置に踏み台などを使うことなく掛け軸を掛けられます。
掛け軸が曲がっていたり、高さのバランスが悪いとそれだけで部屋の印象が悪くなります。
細かい調整を行う時にも矢筈があると便利です。
3.掛軸を下す際は両手で
掛け軸は繊細な美術品です。
破損しないよう、下ろす時は両手でゆっくりと巻きおろしましょう。
掛け軸のしまい方
次に、掛け軸のしまい方をご紹介します。
慌ててしまうと破けたりシワになってしまいます。
掛けるとき以上に、ゆっくり丁寧に扱ってください。
掛け軸のしまい方 順番
1.外し方
太巻芯がある場合は、まず掛け軸下部の軸棒に取り付け、掛け軸の両端を持ちながらゆっくりと巻いていきます。
2.巻き方
優しく下に引っ張りながら巻き上げていきます。
胸の高さまで巻き上げたら、掛け軸中央を片手で持ち替え、矢筈を使って下ろします。
畳の床など広い場所に広げた状態で、最後まで巻き上げましょう。
3.巻緒の結わえ方
最後に、巻緒で掛け軸を巻きとめます。
巻緒は、掛け軸に沿わせるように三周巻き、最後に掛緒と結びます。
4.桐箱へ収納
桐箱へ丁寧に収納し、隙間に防虫剤などを入れて収納します。
掛け軸をしまう際のポイント
掛け軸をしまっておく時に気をつけるポイントは2つです。
丁寧にしまっておかないと、次に出してきた時に劣化していることもありますので注意が必要です。
1.湿気・カビを避ける
掛け軸に最も良くないのは湿気です。
箱にしまう日は少しでも湿気の少ない晴れた日に行うといいでしょう。
梅雨のような湿気が多い時期の場合は、晴れた日に陰干しして乾燥させて一旦保管し、再び別の晴れた日に再度陰干しすることで湿気を防げます。
掛け軸を入れた箱の保管場所は、家の中でも乾燥した場所を選びましょう。
2.掛け軸は優しく巻く
掛け軸は強く巻きすぎると、折れてしまったり、シワになってしまいます。
優しく巻きすぎて箱に入らない時は、一度開いてゆっくり巻き直します。
紙の部分は触らないように、丁寧に巻いていきましょう。
掛け軸の保管方法とお手入れの方法
長く掛け軸を楽しむためには、保管方法とお手入れ方法は非常に重要です。
特に掛け軸は湿度の管理が難しいので、お手入れ方法は熟読しておきましょう。
・保管方法
掛け軸は紙なので、湿気に大変弱いです。
濡れた手で触ってしまうとカビの原因になってしまいますので、しっかり水分を拭き取った手で作業しましょう。
次に、掛け軸を薄い和紙で包み、桐の箱に保管します。
桐は、湿気を吸い取って収縮します。
虫もつきにくいので、掛け軸の収納には桐の箱が最適です。
隙間に防虫香を忘れずに入れておきましょう。
・お手入れ方法
湿気に弱い掛け軸ですが、だからといって乾燥しすぎてもよくありません。
常温を保てて、直射日光が当たらない湿気の少ない場所に保管しましょう。
買ったばかりの掛け軸は、最初の1ヶ月は3日程度掛けたら、2日間くらいは休ませましょう。
その後も、1年中かけっぱなしはよくありません。
数ヶ月に一度は別の掛け軸と交換させ、休ませるようにしましょう。
また、ずっと閉まっておくこともよくありません。
普段あまり使用していない掛け軸も、年に1〜2回、春や秋などよく晴れて乾燥している日に虫干しをしておきましょう。
床の間が無くても掛け軸はかけられる!
掛け軸は床の間や和室以外に掛けてはいけないなどというマナーはありません。
場所を選ばずどこでも楽しめるのは、掛け軸の大きな魅力のひとつです。
例えば床の間がないマンションのリビングでも、掛け軸を楽しめます。
掛け軸は、直射日光の当たらない場所に掛け軸を掛け、その下に置き畳を置きます。
ちょっとした和雑貨や生け花を置くだけで、床の間風の和空間が完成します。
他にも、洋室に合う掛け軸や、絵画を印刷した洋風の掛け軸など、様々な種類の掛け軸が販売されています。
掛け軸は、床の間がなくても楽しめる、唯一の古美術です。
床の間にかける掛け軸の種類

ここからは、掛け軸の種類について細かくご紹介します。
昔ながらの季節感のある掛け軸だけでなく、和モダンの現代風掛け軸もありますので、これから掛け軸を購入する方はぜひ参考にしてください。
季節を表す掛け軸
季節の花の図柄が描かれた掛け軸を掛けることを、季節掛けといいます。
季節ごとにその季節に合った掛け軸で部屋を飾るのは日本らしく風情があり、掛け軸の醍醐味でもあります。
季節掛けに使われる掛け軸は、その季節の花と鳥がセットで描かれていることが多いです。
季節ごとに描かれる、代表的な花図柄をご紹介します。
・春「桜」
日本の春といえば桜が代表的です。
桜と鳥や桜と月がセットで描かれているものが多く、新しい気持ちで春の訪れを祝うという意味が込められています。
・夏「朝顔」
朝顔は浴衣にもよく利用されている夏の花絵です。
青を基調とした夏らしい爽やかな雰囲気があります。
・秋「紅葉」
紅葉に小鳥の組み合わせの図柄が多く、真紅に染まる紅葉は鮮やかで趣深い秋を象徴する図柄です。
・冬「水仙」
清楚に咲く白い水仙の花は、春を待ちわびる冬の図柄です。
慶事の掛け軸
お正月、結納、お祝いなどのおめでたい席を演出する際は、お祝いに相応しい図柄を掛けます。
慶事で使用する掛け軸の中でも特に代表的なものが「松竹梅高砂」と「松竹梅鶴亀」の2つです。
・松竹梅高砂
夫婦和合・長寿などを縁起の良い図柄なので、結納や婚礼などの席で掛けるたり、結婚祝いや結婚記念日の贈り物などに選ばれています。
・松竹梅鶴亀
松竹梅は生命力の強さの象徴、鶴亀は長寿の象徴と言われ、還暦・古希などのお祝いの場や贈り物として人気です。
仏事の掛け軸
お盆・お彼岸・仏事や法事などで飾ります。
宗派に合わせて飾るのが一般的です。
仏事用の掛け軸で特に有名なものを2つ紹介します。
・観音様
厄難を払い除けてくれるといわれており、心安らぎ、穏やかな気持ちになるようにという意味が込められています。
・六字名号
南無阿弥陀仏の六字の尊号であり、主に浄土宗・浄土真宗・天台宗の方が使用しています。
年中用の掛け軸
年中用の掛け軸は、季節を気にすることなく掛けられる掛け軸です。
・水墨山水
墨だけで描かれた山水画です。
描き手の物語が描かれていることが多く、自然の景色からその思いを感じられる、掛け軸の中でも最も良く目にする図柄です。
・書画
文字のみや、文字と画の入った掛け軸です。
季節に関係なく飾れて人気です。
おしゃれな掛け軸
インテリアアイテムとして楽しめる掛け軸もあります。
海外の絵画やアートなど和モダンな部屋にも合うので若い人にも人気の掛け軸です。
・世界の名画「夜のカフェテラス」
フランス画家「フィンセント・ファン・ゴッホ」の代表作を掛け軸にしたものです。
和室や床の間がなくても掛け軸を楽しみたいという方にはぴったりの掛け軸です。
また、ナチュラルインテリアとしても人気です。
・赤富士 「朱映富嶽」
外山寿福の作品で、吉祥図の赤富士をモチーフにした掛け軸です。
華やかでおめでたい雰囲気があり、事業発展や良縁に、縁起の良いインテリアとしても人気の掛け軸です。
モダンな掛け軸
伝統的なスタイル以外にも、洋風の部屋でも和の雰囲気を楽しみたいという方のためのモダン掛け軸もあります。
・「竹に雀」 茂木蒼雲
竹と雀を描いたモダンな雰囲気が印象的で、季節関係なく楽しめます。
壁にかけるだけで手軽に和の雰囲気が楽しめます。
・「タペストリー・花」 小川光章
麻を使った書の掛け軸で、季節のうつろいをイメージした作品です。
リビングの間接照明などにも合う、現代風の掛け軸です。
風水を意識した掛け軸
風水は中国発祥ですが、中国に床の間はありません。
凶の方角に作られることが多い床の間に、縁起の良いの掛け軸を置くことで運気がアップするといわれています。
・四神相応図
風水で良く使用される中国の霊獣「四神」が描かれた掛け軸で、良い運気の流れを取り込むと言われています。
商売繁盛、夫婦円満、長寿、厄除けなどの意味が込められています。
まとめ

床の間に掛け軸を飾る時は、床の間のサイズだけでなく掛け軸のサイズもサイズを測る上で、バランス良く飾るのがポイントです。
昔からのルールに合わせて飾るのも日本らしい風情があっていいですが、床の間がないマンションのリビングなどでも、掛け軸を掛けるだけで和風モダンな雰囲気に変わります。
現代的なデザインの掛け軸もたくさん販売されていますので、床の間や和室がない方も、自分らしい和の空間を作って楽しんでみてください。