
床の間に掛け軸を飾りたいけれど、どうも難しくて何を基準に選べば良いか分からないという方は多いと思います。
しかし、掛け軸のマナーはそれほど難しくはありません。
基本的に好きな図柄を掛けて楽しんだり、華やかな雰囲気でお客様をおもてなしするという意味では絵画と同じです。
本記事では、これから掛け軸を掛けてみようと思っている方のために、掛け軸の種類と基本的な掛け方について解説します。
掛け軸とは

掛け軸とは一般的にどのような種類があるのか、詳しく知っている人は少ないのではないしょうか。
そこで、これから掛け軸をかけるにあたり、最低限知っておくべき掛け軸の名称と、お部屋における掛け軸の役割について詳しく解説します。
掛け軸について
掛け軸は、その昔中国から日本に伝わってきました。
当時は飾って楽しむものではなく、掛けて拝むものとして使用されていました。
そのため、昔の掛け軸は仏様が描かれたものが多かったのですが、次第に季節の花や鳥を描いた美しい水墨画などの掛け軸が人気となり、今では季節を表し部屋を彩るための装飾品として親しまれるようになりました。
掛け軸には、お部屋のコンセプトや部屋を飾った人のポリシーなどが込められており、お客様をおもてなしするという意味を込めて客間を装飾しています。
掛け軸の名称
ここでは、掛け軸で使用されている道具の細かい部位や役割についてご紹介します。
本紙
本紙は掛け軸本体の書画が書かれている紙のことで、絹・絖・紙があります。
一文字
一文字は、掛け軸の本紙の上と下に貼ってある幅の狭い裂(きれ)のことです。
本紙との取り合わせで最も重要な部分であり、金襴が多く使われています。
上の一文字は下の倍の幅があります。
風帯
風帯は、掛け軸の天の部分に下げた帯のことをいいます。
中国では払燕と呼ばれており、帯の動きで燕を追い払い掛け軸を汚れから守る役割をしていました。
露花
露花は、風帯の下端の左右についた、小さな総のような糸のことをいいます。
白が一般的ですが、他にも浅黄、萌黄、紫と全部で4色あります。
紫は納言以上の人に使われていました。
鐶(かん)
鐶(かん)は、掛け軸を掛けるための掛緒をとめる金具です。
丸く曲げた釘先を輪にして止めた「江戸鐶」と、曲げた釘をそのまま伸ばして二本にした「足摺鐶」の二種類があります。
啄木(たくぼく)
掛け軸の上部に打ち付けられた環に結び付けられた紐のことを掛緒といい、そこから掛け軸をしまう時に使う紐のことを巻緒といいます。
この2つをセットにして「啄木」と呼びます。
掛緒と巻緒に使われている糸の色はまだら模様になっており、この模様がキツツキのついた跡に似ていることから「啄木」と呼ばれるようになりました。
中廻(ちゅうまわし)
掛け軸の本紙と一文字を囲む上下の部分を中廻しといいます。
中廻しは掛け軸全体の印象を大きく左右する部分でもあり、四季に合わせた色合いや作品のイメージに合わせた柄を選びます。
軸
軸は、軸木の左右についている円形の部分をいいます。
軸には象牙や陶器、水晶、竹などの素材が用いられます。
掛け軸の種類①床掛け

床の間に掛ける掛け軸のことを、「床掛け」といいます。
掛け軸のサイズは、床の間のサイズに合わせて選ぶのが一般的です。
最も標準的なサイズは「尺五」といわれるサイズで、横幅が54.5cm、縦が190cmあります。
それよりも少し幅が小さいものが「尺三」、広いものを「尺八」を言われています。
掛け軸の幅は、床の間の横幅の3分の1だと美しいと言われていますので、ご自宅の床の間のサイズに合わせて決めましょう。
季節の掛け軸
春「桃・梅・桜・鶯」
春物を掛ける時期は、1月〜4月が目安です。
最も早く咲く梅は、鶯とセットで描かれていることが多く、華やかな春の訪れを待ちわびるような図柄です。
また、日本の代表的な春の花である桜や、3月の桃の節句に合わせた桃の図柄も春らしく人気があります。
夏「朝顔、紫陽花、川蝉、金魚、滝や清流」
夏物を掛ける時期は、4月〜8月のお盆前までが目安です。
涼しさを表現する花や鳥を中心に、青を基調として描かれているものが多いです。
川蝉は、大願成就の願いが込められた図柄で、夏の縁起物として人気があります。
また、浴衣の図柄によく利用される朝顔や金魚も、涼しげで夏らしい印象です。
秋「栗、柿、紅葉、落ち葉、秋桜」
秋物を掛ける時期は、8月のお盆過ぎから11月までが目安です。
秋は朱色に染まる紅葉や山景色が好まれており、日本らしい美しさが1年を通して人気が高いです。
また、晩秋の風物詩として人気が高い掛け軸は、柿と小鳥の図柄です。
日本の一年で最も美しいと言われる秋の景色を掛け軸を通して楽しんでください。
冬「水仙、椿、牡丹、菊、南天、紅白梅」
冬物を掛ける時期は、12月から2月の立春までが目安です。
南天は厄除けの意味もあり、人気の高い図柄です。
日本の厳しい冬でも見事に花を咲かせる梅は、大願成就につながると言われており縁起のいい図柄です。
年中掛けられる掛け軸
縁起物(猛虎・龍など)
家内安全や魔除けの意味を持つ虎や、出世の意味を持つ龍など、縁起の良いものとして選ばれている図柄をモチーフにした掛け軸は、季節に関係なく年中掛けておけます。
彩色山水
最小限の色で美しい風景画が描かれている掛け軸です。
四季を選ばず年中掛けておけます。
茶室で好まれる掛け軸
茶室に掛ける掛け軸で人気が高いのは「書」の掛け軸です。
茶室において、掛け軸は、主人が客人をもてなす気持ちを表現したものです。
掛け軸に書かれた言葉は、茶席では非常に重要な意味があります。
一期一会、日々是々、不動心などの文字があります。
掛け軸の種類②仏壇

お仏壇に祀るための掛け軸もあります。
お仏壇の掛け軸の基本的として、本尊と両脇侍の3本1組で揃え、仏壇のサイズに合わせて購入することが一般的です。
巾はそれぞれ、小さいもので7.5cm巾、大きいものでは30cm巾のものもあります。
仏壇を購入する時、同時に購入すればサイズ間違いもありません。
仏壇に祀る掛け軸は、何でも好きなものを購入すればいいというわけではありません。
宗派によって色々と決まりがあるため、自分の宗派に合わせて購入します。
本尊と脇掛の並びも宗派によってそれぞれ違いがありますので注意しましょう。
曹洞宗
曹洞宗の場合、お仏壇の本尊は特に決まっていません。
一般的には、中央に「釈迦牟尼仏」、両脇の向かって右に「承陽大師」を、向かって左に「常済大師」の並びが一般的ですが、ご自身の信仰のあるお寺の由緒に従いましょう。
掛け軸の形

この章では、掛け軸の形式について詳しくご紹介します。
掛け軸の表装はさまざまな方法があります。
特に仏具や茶道に使用する表装は特別なので、注意が必要です。
文人表装
文人表装は、中国王朝時代に流行した表装形式です。
江戸時代には多くの文人画風の絵画が描かれていたため、それに伴い文人表装も流行しました。
丸表装
同じ裂地を全体にぐるりと廻したものを丸表装といいます。
本紙の丈が長いものに使われることが多く、書・絵の両方に使われています。
比較的安価で、最もポピュラーな様式です。
明朝表装
同じ烈地で全体をぐるりと廻し、「明朝」という細い縁で両サイドを囲ったものを明朝表装といいます。
明時代に中国で流行したことからこの名が付き、書や文人画によく使用されています。
大和表装
大和表装は主に仏壇で使用される表装形式です。
日本で造られた大和表装は、真・行・草の三体があります。
茶道に通じるものとして、相阿弥が確立したと言われています。
真
真は、仏画や礼拝用の書画に最もよく使用されている形式です。
その他、希少な作品などにもこの表装形式が使用されます。
大和表装の中で最も格式の高い表具形態といわれており、真の中でも真の真、真の行、真の草の三種類があります。
真の真には一文字廻しに筋廻しが二重に施されており、そこから一文字回しをなくしたものが、真の行、真の草、となります。
一文字と一文字回しの有無で格式が変わります。
行
行は、大和表装の中で一般的な表装です。
三段表装とも呼ばれ、花鳥画や山水画など、仏具以外ならどのようなものにも使用できます。
行の真が最も格式が高く、行の行、行の草と格式が変わります。
行の真は神社や神宮に使用されることが多く、行の草はあまり見かけることがありません。
草
草は、通称「茶掛け」と呼ばれる表装で、一般的にはお茶席の本席に使用されています。
茶人や禅僧が書いた書や画に用いられ、柱が非常に狭いことが特徴です。
過美を避けるため一文字が本紙を廻る形式はなく、「草の行」と「草の草」の二種類しかありません。
まとめ

掛け軸は、掛ける場所と内容によって様々な表装があります。
ただし、お茶の席だけは特別なルールがあり、決まった表装形式の掛け軸が使用されるため、注意が必要です。
また、仏具として使用される掛け軸も、格式の高いものが多く、信仰によって表装形式が様々です。
そのため、お茶の席や仏具を使用する際には、あらかじめ下調べをし、シチュエーションにあった掛け軸を掛けるようにしましょう。